「私という良い子ちゃん」の存在を消し去りたい その時目の前にAV女優という手段があった【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第12回
【肉体的な死でなく、社会的な死を望んでいた私】
私がAV女優になったのは、肉体的な死を選ぶことができず、社会的な死を望んだからだ。これはAV女優の社会的地位についての話ではなくて、単純にデビューする前までの「私という良い子ちゃん」の存在を消し去りたいという意味での話だ。
これまでの自分と自分に纏わりついたしがらみ、例えば自分自身が築き上げたものであったり、私につきまとうイメージだったり、それら全て壊して、何もない「無」の状態に戻したかったからである。その手段がたまたまAV女優であっただけで、何か違う方法があったのならその手段をとったのかもしれない。
しかし、偶然にもAV女優という手段が、限界に達していた私の目の前に現れて、藁にも縋る思いで手を伸ばした。今考えると安易だったのかもしれないが、そのころの私には“自分がデビューしたらどうなるのか”や“その後に自分の人生”について具体的に考える余裕を持ち合わせていなかったのだ。
これが現時点で出せている「なぜAV女優になったか」の答えだ。
しかしながら、その結果は私が予想した通りにはならなかった。確かに見える世界は広くなったし、煩わしい人間関係とも距離を置くことができたが、全てが劇的に変化したわけではなかった。相変わらず私は私だし、環境を大きく変えたところで、本質的な部分はあまり変わっていない。ただ、心なしか自分の足で人生を歩けているような、そんな感触はあった。